Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「まぁ、あんまりデカすぎたり甘すぎたりしなければ問題ないだろ。それに唐沢は、相手に迷惑になるようなもんはやらなそうだし」
「……さっきのホールの話?」
横を見ながら言うと、宮地が「ふー」と白い煙を吐き出しながら呆れた笑みを向けた。
「そ。〝一生懸命作ったのに〟って主張だけで、甘いものが苦手な俺に無理やりホールケーキ食わせるのは違うだろ。胃がつらい」
「でも、宮地だったらそういうの上手く交わしそうなのに。ひと口食べておいしいって言ってあとは持って帰って友達にあげるとか」
不思議に思って聞くと、宮地は「あー……」と煙草の灰を灰皿にトントンと落とし、笑みを浮かべる。
少し情けないような、そんな顔だった。
「それもできたけどさ、なんかチョコケーキの本気具合に彼女の気持ちのデカさが見えたっていうか……同じ軽さで付き合ってるつもりだったのに、そうじゃないってわかって……それで。
だって、俺がケーキ食べるところ、キラキラした顔で見てたし。あんま、俺なんかに本気になってほしくなくてさ」
そんな変な気を遣うんだったら、真剣に付き合ったほうがよっぽど楽そうだ。
だって、相手と自分の気持ちの大きさを常に意識してバランスとるなんて面倒に思える。
言葉にはしなかったのに、宮地は私の顔からなにかを悟ったのか、苦笑いを浮かべた。
「でも、まぁ……そろそろ変わる必要があるのかもとも思ってるけど。そうしないと……なんか、大事なもんが奪われちゃいそうだし」
「……そうなんだ」
変わるって、どう変わるんだろう。
もしかしたら、真剣に恋愛と向き合う気が起きてきたとかそういう――。
と、湧き上がろうとした期待に気付き、それをギュッと上から押し込む。
まだまだ私は宮地が好きだから仕方ないにしても、宮地の言動にいちいち可能性を見出して浮上しようとする期待に困ってしまう。
どうせ、〝もしかして〟なんて思ったところで失恋決定だし……意味深に聞こえた『大事なもん』だって私のことではないのに。