Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
ふぅ……と気付かれないように息をもらし、最後のひとつとなったコーヒーカップを洗い終えたとき。
「唐沢って、向井弟のこと考えてるとき、なんか柔らかい表情するよな」
不意に言われた。
「え……」と声をもらしながら見れば、宮地が視線だけで私を見ていて……その眼差しがいつもとは違うように感じトクンと胸が跳ねる。
「……そう? 涼太っていうより、チョコのこと考えてたからじゃない?」
声が裏返らないように必死になって平静を装いそれだけ告げると、宮地は「ふぅん」となにかを含ませた相づちを打ってから、煙草を灰皿に押し付ける。
それから私に視線を移し、目を細めた。
「俺も明日買ってこようかな。唐沢にチョコのホールケーキ」
その眼差しに……言葉に、雰囲気に。浮かびあがろうとする期待に泣きたくなった。
たったこれだけのことで嬉しくて堪らなくなってしまう私を知ったら、宮地はいったいどうするんだろう。
〝はは、俺も唐沢好きだけど〟なんて冗談として流すだろうか。
〝そんな告白されたらきっと本命だってうなづいてくれるって〟なんて、最初から嘘だと決めつけ励ますだろうか。
どちらにしても、こんな真剣な想いは望まれないし、きっと切り捨てられてしまう――。
「やめてよ。こんなケーキばっかり食べてたら太る」
やめてよ。期待、させないで。
なんでもない顔を必死で演じる私を、宮地はただ微笑んで見ていた。