Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
涼太の支店はひとつ隣の駅が最寄駅になるはずだし、アパートに帰るならこっちにくるのは逆方向だ。
だから聞くと、涼太は「ああ」と短く答える。
手に持っているのが営業カバンじゃないってことは、仕事の用事ではないのかな。
「用事ってこれから? 場所わかる?」
用事の内容まで詮索したら悪いかな、と思い聞くと、涼太は気に入らなそうに目元を歪め「子ども扱いすんな」と刺々しい声で言う。
「それに、もう済んだから帰るとこだし。……おまえは?」
「私ももう帰るところ」
ギュッとバッグを持っていた手を緩め笑顔を返すと、涼太はそんな私をじっと見たあと、キョロキョロと周りを見回す。
この道はいわば裏道で、いつだったか佐藤さんに教えてもらった道だ。駅までの近道として。
車がすれ違う幅もないから車の通りも少なくて静かだし、支店から駅裏までを繋いでいるからすごく便利なんだけど、ただ、夜は少し怖いかもしれない。
細いから街灯も人通りも少ないし。
「おまえ、毎日こんな道通ってんの?」
眉を寄せ問われ、苦笑いを浮かべた。
ちょうど通りがかっていた公園には街灯はひとつしかなく、どんよりとしていてホラーの雰囲気さえ醸し出していた。
ブランコがひとりでに動いていた日には悲鳴を上げてしまいそうだ。
「日が沈むのが早くなるとさすがに怖いから大通りから帰るんだけど……最近はこの時間でも明るいから大丈夫かなって思って」
「なにが大丈夫なんだよ。俺が話しかけただけでビビってたくせに」
……バレてたのか。案外鋭いな。