Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「だね。明日からはちゃんと大通りから帰る。……でも涼太、こんな裏道通ってどこ行ってたの?」
涼太も近道として使ったんだろうか。だとしても、普段使わない駅なのによくこんな裏道知ってたなぁ。
そう思い聞いた私から、涼太はふいっと目を逸らす。
「別に。……おまえが変な視線感じるとか言うから、ついでに待ってただけ」
そっけなく告げられた言葉に、ポカンとしてしまう。
『ついで』なんて言ってるけど……本当に用事なんてあったのかと聞こうとしたところで、涼太が続ける。
「さっき話しかけたらビビってたけど、今日も見られてる感じすんのか?」
目を合わせ聞かれ、「ああ……うん。でも、勘違いかもしれないし」と言ってから見上げて軽く笑う。
「だから、気にしなくて大丈夫だよ」
「誰がいつ気にしたんだよ。勘違いすんな」
「はいはい」
素直じゃないなぁ……と思うと、うっかりクスクスと笑みがもれてしまう。
こんな笑い方したら険しく睨みつけられるに決まってるのに……と、様子を窺うと、意外にも予想していた目力は飛んできていなくて拍子抜けしてしまう。
そういえば、なんとなく元気がないかもしれない。
覇気がない。
じっと、観察するように見ていると、わずかに眉根を寄せた涼太は「なんだよ」と呟くように言ったけれど……その声もなんだか弱々しかった。
「今日、なにかあった?」
見上げながら聞いた私を涼太は黙って見つめ返す。
いつもみたいに威勢よく睨んでくる瞳は、今はおとなしくシュンとして見えた。
しばらく見つめ合ったあと、ひとつ小さな息をついた涼太が目を逸らす。
「別になにもねーよ。ちょっと仕事でミスって上司に迷惑かけただけ」
「ミスって、営業? それとも預金?」
新入として配属されたとき、私は預金内のことだけを覚えればよかったけれど、涼太の場合は、いずれ営業になる可能性も高いからと、二足のわらじ状態だ。
その割合は、預金4、営業6くらい。