Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
営業が預金担当者に顧客からの依頼を回すとき、それなりに預金の仕組みがわかっていないとダメだからと、まずは預金を……ってことなんだろうけれど。
最初からふたつの課をまたぐなんて相当大変だ。
だから、涼太からその話を聞いたときには驚いたから、よく覚えてる。
涼太は静かなトーンで「営業」とぽそりと答えた。
「取引先にデカい企業があるんだけど、そこ、毎回課長について一緒に回ってた。で、やっと口説き落として今日、融資契約ってなったんだけど……そこの社長のひとり娘が、俺が高校ん時フッた女だったみたいで、今日初めてそいつと顔合わせて微妙な空気になった」
「え……契約は?」
別に涼太のミスじゃないんじゃ、とか、気になることは他にもあったけれど、とりあえず結果が気になって聞くと、ボソボソと言葉が返ってくる。
いつもの涼太からは考えられないような大人しい口調だった。
「無事契約にはなった。デカい企業の社長だし、さすがにそんな私情挟み込んでくるような人じゃない。でも……俺のせいで、せっかく課長が収めた結果に水差したっていうか……。社長のひとり娘は〝こんなヤツがいる会社と契約するな〟とかヒステリックにわめいてたし」
「……それはその子が悪いよ。フラれたからってそれを根に持って仕事にまで持ち込んでくるなんておかしい。それは社長だって言ってたんじゃないの?」
涼太のせいじゃない。
真っ直ぐに見つめ聞いた私を、涼太がぼんやりと見つめ返す。
「言ってた。なにもわかんねーくせに口挟むなって。でも、そいつ追い出したあとで、〝高校の頃、フラれたって一時期荒れてたけど君がその相手だったのか〟って苦笑いされた」
どうやら、責められたわけではないってことがわかり、ホッとしていると涼太が続ける。
「俺が謝ろうとしたら、その前に課長が頭下げて……それ見て、なんか……申し訳なくなった。別に、今までだって仕事に責任を持ってなかったわけじゃねーけど……もし、これから先俺がミスしたら課長が頭下げるのかって、痛感した」
「……そっか」