Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
涼太が数歩歩き、公園の柵に腰掛ける。
相変わらず道に人通りはなく、しん、とした空間が広がっていた。
夜に染まり始めた空には、ポツポツと星が浮かんでいた。
「課長は、なんて?」
近づき、涼太の前に立つ。
「別に気にすんなって。私情絡めてくるのは相手が悪いんだし、まして学生の頃の話なんだからって。
支店戻ったあとも、事情知った周りがやたら気遣ってきて、近くのコンビニ連れてかれて好きなもん買ってやるから元気出せって言われた」
「……すごく可愛がられてるんだね」
その光景を思い浮かべると、ふふっと笑ってしまう。
でも、それだけ構われるってことは、普段涼太が仕事をきちんとしている証拠だ。
涼太は真面目だし、そういう仕事への姿勢がちゃんと評価してもらえているんだってわかって、なんだか嬉しくなった。
「なに買ってもらったの?」
「モンブラン勝手に買われた」
「ちゃんとありがたく食べた? 涼太、〝子ども扱いするんじゃねぇ〟とか怒りそう」
「そんな態度、おまえにだけだって言ったろ。会社ではちゃんとしてるし、ケーキも食べた。……気遣ってもらってんのに無碍にするほどガキじゃない」
最後「まぁ、いい年した男にケーキとかちょっとどうかとは思ったけど」と付け足して力なく笑った涼太に、ふっと表情を緩める。
でも……そうか。
涼太は涼太できちんと頑張ってるんだなぁ。責任を持って仕事をしているんだ。
どうしても学生の頃の涼太のイメージが強くておかしな気がしてしまう。
そんなの当たり前のことなのに。
「そっか……そうだよね」
自分自身に言い聞かせるようにそう呟いていると、不意に涼太が手を伸ばし……私の手に触れ、そのまま握る。
どうしたんだろうと眺めていると、涼太がゆっくりと顔を上げる。
柵に腰掛けている涼太のほうが低い位置にいるから、見上げられる形になり、慣れない目線だからか目が合うなり胸が小さく跳ねた。
薄暗い夜道。
空に浮かんだ月が、涼太を薄明りで照らす。