Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「なにって、キス。年下だからって油断してるおまえが悪い」
口の悪さはいつも通りなのに、どうしても涼太が涼太に見えなくて……ひとりの男に見えてしまって、すぐに返せない。
じっと見上げてくる形のいい瞳も、その上で揺れるサラサラとした黒髪も、さっき私に触れた薄い唇も……全部を意識してしまい、身体の温度がじわっと上がったのがわかった。
「キスって……なんで……」
「別にいいだろ。初めてってわけでもないんだから」
言い終わる前に即答され、思わず「よくないっ」と声が飛び出ていた。
「こういうことは簡単にすることじゃないでしょ。大体、こんな会社の近くでとか、誰が見てるかわからないのに――」
「――唐沢」
ドキドキうるさい心臓を感じながらも必死に言葉を繋いでいたとき、横から呼ばれた。
聞きなれたその声にハッとし、視線を移すと……そこには宮地の姿があった。
「……宮地」
私と涼太に近づいた宮地は、一メートルほど距離を残して立ち止まる。
それから、涼太に視線を落とした。
宮地は駅に向かうところだったんだろうけど……どこから見ていたんだろう。
暗いし、何していたかなんて見えなかった可能性もある。
それに、宮地は私を好きなわけじゃない。
私がどこで誰となにしようが気にも留めないハズだし、たとえ見られていたってなんの問題もない。
それでも、胸は不穏な音を立てテンポを上げていた。
月灯りのおかげで見えた宮地の表情は無表情で……でも、すぐにニコッと綺麗な笑みを浮かべた。
「向井弟か。こんなところでうちの唐沢に軽い気持ちで手出してもらっちゃ困るんだけど」
笑顔だし、口調だって穏やかなのに……言葉の奥に圧力みたいなものを感じた。
これが私に向けられたものだったら怖いと感じてしまいそうな、そんな雰囲気の宮地を、涼太は目を逸らすことなく見上げていた。