Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「あ……宮地、今のは別になんでも――」
「軽い気持ちだったら困るんだろ。だったら問題ない」
やけに張りつめて感じる空気のなか、なんでもないと笑顔を作った途端、涼太がそれを遮った。
すっと立ち上がった涼太になにも言えずにいると、宮地が「問題ないってなにが?」と聞く。
雰囲気はピンと張ったままだった。
涼太も宮地も背が高いから、こうして対面していると圧巻でたじろいでしまいそうになる。
また、ふたりが真顔で見合っているから余計に。
ピリピリと緊張が肌を刺すようだ。
そんな肌に優しくない沈黙を破ったのは涼太だった。
「だから、軽い気持ちじゃないならいいんだろ? それとも、ただの同期が恋愛まで口出しすんの? そんな権利もないくせに」
なに、それ……と、涼太の言葉にびっくりして声を失う。
私が見つめている先で、涼太は宮地から目を逸らそうとはしなかった。
私もその視線を追うと、驚きを顔に広げ黙っている宮地が映る。
いつもの宮地だったら、軽い調子でなんでもうまく流すのに黙るなんて珍しい。
どうしたんだろう……と思い眺めていると、繋いだままだった手を涼太にぐいっと引っ張られ、強引に歩かされる。
「あ、ちょっと……」
「行くぞ。帰るんだろ」
前を向き、ぐいぐいと先を進んでしまう涼太に、半ば引きずられるようにして歩き……少し行ったところでハッとして宮地を振り返る。
「ごめん、宮地。お疲れさま」
私の言葉にたいしても、宮地はなにも返さなかった。
その様子をおかしくも思ったけど、わざわざ引き返して聞くようなことでもないよね、と自分のなかで確認し、背中を向けた。
無表情の宮地も……そして、私の手を引く涼太の背中も、
まるで、知らない男の人みたいだった。