Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「でもね、フラれたって言っても、告白もできてないの。告白する前に私は舞台にも上げてもらえなくて……最初から、ダメだったみたいで。
だから多分、宮地は私の気持ちにすら気付いてない」
繋いだままの手が、ふたりの間で揺れる。
電車のなかでも離れなかった手を不思議に思ってたけど、今は涼太の手がとても心強く感じていた。
「だから、宮地は悪くないの。私が勝手に期待したり舞い上がったりしてただけで……私が、悪い」
宮地は悪くない。
私が勝手に傷ついているだけで、宮地に傷つけられたわけじゃない。
どうしょうもない恋心が苦しくてじわっと浮かんできてしまった涙。
それに気付き、我慢しようとぐっと奥歯を噛みしめる。
涼太の前で泣くなんて年上としてダメだと、昂ぶろうとする感情を抑えていたとき、涼太がピタッと足を止めた。
まだ、私のアパートまでは少しある、住宅街の細い道。
街灯と街灯のちょうど間の薄暗闇のなか、涼太が私をじっと見た。
「泣かねーの? 今なら……あれだ。肩くらい貸してやる」
いつもの口調からは考えられないほど穏やかなトーンだった。
ポカンと拍子抜けして、込み上げてこようとしていた涙さえも止まってしまう。
「どうしたの……? 涼太が優しいとか怖い……」
「うるせーな。別におまえが泣いたところでその間抜け面はそれ以上ひどくなりようがないからってだけだ」
ふん、といつもの調子で言う涼太に「……態度の落差がひどい」と呆れ笑いをこぼしてからじっと見上げる。