Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「昨日、見ちゃったー。唐沢さんが美形と一緒に帰ってるとこ」
佐藤さんが、ふふーっと笑いながら話しかけてきたのは、金曜日の更衣室でだった。
もう着替え終わったし帰るだけというところで言われ、「え」と声が漏れる。
他の女性行員は全員帰ったあとの更衣室。
佐藤さんが楽しそうに続ける。
「昨日見かけてからずっと話したかったんだけど、ほら、他の人に聞かれていい話かわからなくて。だからずっと我慢してたの。苦しかったー」
ああ、だからこのタイミングでなのか、と納得する。
今さっき、融資担当のひとが出て行ったところだから、わざわざ話し出すのを待っていてくれたらしい。
「別に、聞かれたらマズい話とかじゃないですよ。友達の弟……っていうより、もう幼なじみって感覚かも」
最近は……たまに、本当にたまにだけど、もしかして違う好意を持ってくれていたりするのかなって考えてしまうこともあるけれど。
そんな風に考えてしまったあとにはすぐに、うぬぼれすぎだって自分の90%がツッコむ感じだ。ありえないって。
でも……残りの10パーセントはそれを否定しきれなくて困る。
涼太がふと見せる優しさにいちいち過剰反応してしまうし……なんだか、疲れちゃって。
涼太が私のことを……なんて、菜穂がおかしな理屈で言っているだけで、そんなわけないのに。
「へー、幼なじみなんだ。すっごくカッコいい子だったよね。イケメンっていうより美形って言葉がぴったりな感じで」
佐藤さんも着替え終わっているから、ふたりで何もしないでの立ち話になる。
もしかしたら涼太が待ってくれてるかもしれない……と、腕時計を確認しながら答える。
待たせたら悪いし。