Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「あ、ごめん……」
「おまえ、なんかあっただろ」
じっと私を見て真面目な声で聞く涼太に、〝なんでもない〟と笑おうとして……失敗する。
心配してくれているのが眼差しや声からわかってしまって、そのあたたかさに抑えていた涙が誘われた。
こんな駅前の人通りもある場所で泣いたりしたら、涼太が悪者みたいに思われてしまう。
だからグッと堪え、涼太の手を取って足早にその場を離れた。
「なに……どうしたんだよ」と、涼太にしては珍しく戸惑った声がうしろから聞こえたけど、それには答えずにズンズン歩き続けた。
そして、住宅街に差し掛かり、一気に人通りが減ったところでようやく歩調を緩めると、涼太が立ち止まる。
私が掴んだままの手を軽く振り払った涼太は、逆に、私の腕を掴む形に変え……強引に向き合わせた。
それから、咄嗟にうつむいた私の顔を覗きこんで……驚いた表情を浮かべる。
私が、泣いてたからだろう。
「おまえ、なに泣いて……」ともらした涼太が、ハッとして私の両肩を掴む。
「もしかして言ってたストーカーになにかされたのか?!」
グッと力のこもった手に肩を軽く揺らされ、ふるふると首を振る。
すっかり暗くなった空。
等間隔で立っている街灯と街灯の間。わずかに白い明かりが届いている足元を見ながら、口を開いた。
「私……自分で思ってたよりも、あさましい女だった」
「……は?」
わからなそうな声に、続ける。
「同情とか、一時の楽しさだけで付き合おうって言われたのに……それを、わかってたのに、それでも嬉しいって思っちゃった……。それでもいいから、欲しいって思っちゃった」
涙がポロポロとこぼれるのをそのままに、想いを吐き出すように声にする。
涼太は黙って、私のまとまらない言葉を聞いていた。