Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「宮地の返してくれる量じゃ、足りないのに……。全然足りないし、私の気持ちをそんな軽く見られたのが、嫌なのに……それなのに、それでもいいって……」
涙を溢れさせながら、涼太の胸の部分のYシャツを両手でギュッと握りしめる。
そこにおでこをつけ、はぁ……と詰まった息を吐き出した。
「〝付き合おう〟なんて……あんな軽く言ってほしくなんかなかった……。好きに、ならなければよかった……っ」
外気に負けないくらいの熱を持った涙が頬を伝い、コンクリートを濡らしていく。
しばらく、涼太の胸におでこをつけたまま泣き続けていたけれど、そのうちに誰かの話し声が聞こえてきて、咄嗟に離れようとした。
取り乱していたけれど、今の状態を誰かに見られたらマズイという考えが働いて。
……なのに。
離れようとした私を、涼太はなにを思ったのか、抱き締めてきて……。
驚いて、声を発することも突き飛ばすこともできないでいるうちに、話し声は近づき、そこまできてしまった。
「涼太……っ、ちょっと……」と腕のなかから抜け出そうとしても、力強い腕にどうにもできない。
若い女の子の話し声は、もうすぐうしろに聞こえていた。
「やだー……バカップル」
「家帰ってやれよって思うよね。それに外でいちゃついてるのって大抵、ブス……」
うしろを通っている女の子たちの声が中途半端に途切れる。
私は抱き締められている状態だから、涼太の顔も女の子たちも見えないけど……たぶん、涼太が睨みつけたんだろうと想像がついた。
焦ったような足音だけがどんどん遠ざかる。
それに少しだけ安心して……ようやく抱き締められてるんだと思い出す。
薄いYシャツ越しに涼太の体温を感じ、意識した途端に、胸が騒がしくなった。
目尻に残っていた涙が、頬を流れる。