俺様御曹司とナイショの社内恋愛
「・・・こっちは死ぬほど悩んだのに」
恨めしげな声が出る。

「死んでないじゃん。生きて俺と恋しよう」

「〜〜〜」
もう返す言葉がない。まんまと彼の策中にはまってしまったのか自分は。

時すでに遅し、である。
わたしはもう、この人のことを———

「だから警戒しなくても、べつに酔わせて襲おうと思ってないよ」
だって、と続ける。「もう俺のものだから」

ゔ〜〜悔しい・・

「ゆっくりいただきます」
フォークを手に、にやりとこちらに視線をよこす。

なぜだろう、悪寒がする。

それなのに、料理の味が戻ってくるから不思議だ。自分って、意外と図太い。

「鴨のテリーヌ、半分こしようよ」

「美味しそうですね。白石さんは美味しいお店を、たくさん知ってますよね」

「ん、不味いものに金払いたくないだけ」

さすが “御曹司”。気づけば、ポンポンと会話がはずむ。

「そういえば、仕事以外のときは、さん付けやめない? 俺のほうが、いっこ下なわけだし」

「会社でもうっかり出ちゃいそうで・・・」
郁はしりごみする。

「使い分けっていうか、そっちのほうが緊張感があって、俺は燃えるんだけどね」

「・・努力します。あ、努力する、ね」

ふふっと白石諒が笑む。
その顔を初めて、かわいいと思った。
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