俺様御曹司とナイショの社内恋愛
レストランはビルの四階に入っているので、店を出てエレベーターを呼ぶ。

小さな密室の扉が開くと、白石がなめらかな動作で郁の手をとって乗り込んだ。

一階のボタンを押して、『閉』のボタンを———

あれ、そういえば、不意に思い出す。
「白石さ、えっと白石くん」

なに、と白石が首をかたむける。

「前にエレベーターのボタン、『閉』のボタンを先に押してから、階数ボタンを押したほうが早いって言ってたなと思って」

———1秒でも、その積み重ねが違いになるから

彼と働くようになってから、当然何度か一緒にエレベーターに乗ったけれど、ボタンを押す順は、どうだったっけか。

「普段はそうしてるよ」
彼の目は、やわらかい笑みを象っている。

「郁といるときは別」

なんでですか、素朴に問う。
ちょうど一階に到着し、扉が開く。

「だって、1秒でも長く二人だけでいたいじゃん」

———地上行きのエレベーターで、天国へ舞い上がってしまった。
この世界に言葉があってよかったとさえ感じる、そんな瞬間に、エレベーターで巡り会う。
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