君を愛した時間〜残した宝物

じめじめとした雨が、降っていた日だった。

「心!!」

≪?!≫

事務所から出た、俺を呼んだのは、親方だった。

親方は、一杯飲みに行こうと、俺を誘った。


「…嫁さん、体調悪いのか」

テーブルに、空になったコップを置いて、言った。


俺は、コップに酒を注ぎ返事をした。

「……はい」

「…何か、俺に出来ることが有るなら言ってくれ」


「はい、ありがとうございます…」

俺は、頭を下げた。

「…嫁さんとの時間を大事にしろ…俺も、お前の気持ちは分かるから…」


親方は、目に涙を浮かべコップの酒を一気に飲んだ。


「……親方…」

「…俺の母ちゃんも…今は、天国に居るんだよ」

親方は、笑顔を見せ言った。

「…頭が、痛いって俺が、仕事に行くとき言ってた…俺は、薬でも飲んで寝てろって、母ちゃんに言って仕事に出た……帰って来たら部屋が真っ暗で、母ちゃんを呼びながら、部屋の電気を点けたら…母ちゃんは…椅子に座ってた…俺が、母ちゃんって肩を揺すったら…母ちゃんは、椅子から落ちたんだ…冷たくなってた…母ちゃんが…母ちゃんが……」

親方は、顔をくしゃくしゃにして泣いた……。
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