先生って言う名前の人
名前
幸せな朝はすぐに過ぎて、旅館を出た。
荷物をコインロッカーに預けて、先生とふたりでいろんなところを歩いた。
先生のコートのポケットに手を入れると、とてもあったかかった。
先生はポケットの中で手を繋いでくれた。
知ってる人がひとりも居ないところで、先生とふたりきり。
ずっとこうしてたかった。
「先生、こっち来て!」
先生の腕を引っ張ってそう言うと、先生は立ち止まって言った。
「華、ここで先生はダメ」
「、、じゃあなんて呼ぶの」
「なんでもいいけど、先生以外」
”先生”じゃない先生と一緒に居られるのはすごく嬉しかったけど、名前で呼ぶのはこの上なく照れ臭かった。
わたるくん。
わたるくん。
心の中で何度も練習した。
あたしは先生を見ずにとっても小さい声でわたるくん、と呼んでみた。
「よろしい」
先生は余裕な声でそう言ってまた歩き出した。
あたしが華って呼んでいいよって言ったとき、
先生はなんのためらいもなく華って呼んでくれた。
先生はなんでいつもこんなに余裕なんだろう。
あたしはこんなにいっぱいいっぱいなのにな。