天神の系譜の奇妙なオムニバス
橘 ベルとダンドリッジ・タチバナは、幼い頃から兄妹のように共に育ってきた。

人間よりも遥かに身体能力に優れるダンドリッジは、よくベルに頼まれては無理難題を渋々解決してやったものだ。

しかし、吸血鬼たるもの只では人間の言う事など聞かない。

代償は付き物だ。

ベルの体に流れる血は、あの『災厄の箱の娘』と同じ。

血を啜って生きる者にとっては、とびきりの上等なものだ。

その芳醇な香りと味を、舌の上でしっかりと転がして味わった後。

「…行ってくる」

ダンドリッジはインバネスコートを大きく広げた。

地面に伸びるその影は、まるで巨大な蝙蝠の如き。

その影が、飛び立つ。

満月に照らされながら、闇夜へ。

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