天神の系譜の奇妙なオムニバス
「では政府に従えとは言いません。この度は矛を収めて下さい」

古奈美は根気よく説得を続ける。

「ここで矛を収めてどうする。大久保は士族を弾圧するだけだ。今更刀を捨て、士族にどう生きろと言う?」

「…戊辰大戦の折、二大派閥と言われた佐津間藩と潮州藩(ちょうしゅうはん)…そのうち潮州藩は、現在警察で勢力を握っていると聞いています。でしたら」

古奈美は東郷の目を見た。

「東郷さんが先頭に立ち、佐津間は士族の方々を率いて、軍部で勢力を握っては如何でしょうか。士族の方々の剣の腕、軍でなら生かす事が出来る筈です」

「…姫といっても、所詮は子供、所詮は女子(おなご)か…」

溜息をつく東郷。

「古奈美姫、大久保は…政府は佐津間に…儂や士族に勢力を握らせたくないのだ。全権を潮州で牛耳ろうとしている。戊辰大戦が終わった今、ヒノモトは佐津間と潮州の勢力争いの真っ只中なのだ」

「……」

言葉を失う古奈美。

「今、蜂起せねば佐津間も士族も刀を奪われ、しがない負け犬にされる。ここで矛を収めても同じ事だ…どうだ古奈美姫。何か良き案はあるか?」

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