天神の系譜の奇妙なオムニバス
そしてある夜、腹が減って、血を啜ってやろうと思い…。

そう、確か、1人の女の血を啜った。

背後から音もなく近寄り、抱きすくめ、白い項にかぶりついてやった。

別に殺すほど血を啜るつもりはない。

空腹と渇きを満たせれば、それでよし。

少し気を失う程度の量の血を、啜ってやった。

その若い女は、やや苦しげな顔をしたが、肩越しに振り向いて言った。

「仕方ない奴だなぁ…血を吸うのは私だけにしとけよ?」

吸血鬼である自分を恐れもせず、忌み嫌いもせず、ただ無闇に血を吸う事のないよう、私の血だけを吸えと言った風変わりな女。

以後しばらくの間、あの女の血だけを飲んだ。

女が死なない程度に、また吸血鬼化しないように配慮しながら、吸血を続けた。

一時期、俺の渇きを満たすのは、あの女の血だけだった。

今も俺の体内を巡る血の大半は、あの女のものの筈だ。

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