天神の系譜の奇妙なオムニバス
「いいよいいよ、時々ここには、お兄さんみたいな人が迷い込むんだよ。気にしないで」

お龍が窓から顔を覗かせ、にゃはっと笑う。

「……」

無言で佇む青年。

その足元に隠れていたのか、1匹の猫が顔を覗かせる。

「あ、初(はつ)ちゃん」

お龍が声を上げる。

天神の地に住み着く猫、初。

北斎やお龍が来る前から天神の地に住んでいるので、恐らくは妖怪…化け猫の類だろう。

気ままに天神の地や寺子屋を散歩し、暇があれば雑木林の奥にある、『小岩井 防人』と刻まれた墓標に寄り添っている。

墓の付近には時折幽霊が出没するという話があり、その幽霊は初の飼い主だったのではないか…という噂だが。

「この猫に…誘われるままに来た」

青年は呟いた。

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