天神の系譜の奇妙なオムニバス
拳銃らしからぬ銃声。

ティグルは軽いステップで後退する。

…濁流のように、腹から流れ落ちる血。

カスール弾は確かに命中している。

無論だ。

死なない呪いと共に、必ず命中する呪いも施しておいた。

焼けるような痛みが、試合中ティグルを苛むだろう。

なのに。

「悔しそうだね…」

傷を庇いながら、ティグルは言った。

「もしかして、最後の1発だったりした?」

「……」

ダンドリッジは喋らない。

「ラスト1発なら、お腹よりも心臓や眉間に撃ち込みたかったよね。死なない呪いかけてるなら、急所に当てた方が効果的だもんね」

「…よく喋る勇者だ」

ダンドリッジは舌打ちした。

確かに、この大会はガンマンやスナイパーには不利だ。

弾薬に限りがある以上、数百名を相手にするには厳しすぎる。

ふんだんに残弾は用意してきたが、それでも1発で仕留められる相手など限られていた。

この大事な局面で、ダンドリッジのカスール弾は底をついていた。

「傷を再生しないのも、その為でしょ?弾薬がなくなったら、魔力そのものを弾丸に使わなきゃいけない。この大会では、マスターであるベルの魔力供給は受けられないからね。再生にばかり魔力は割けない」

「……」

ダンドリッジは答えない。

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