天神の系譜の奇妙なオムニバス
「勝たせてもらうよ」

ティグルが大きく振り上げたレーヴァテイン。

そこから火柱が上がる。

ヴィゾーヴニル・キルド。

リュートをも追い詰めた、ティグルの決め技。

ダンドリッジは、それを見る。

「どうした…勝ちを急ぐな」

「……」

今度はティグルが口を閉ざす番だった。

「弾薬もない、再生もできない。その剣で刻んでいれば、勝手にくたばる吸血鬼だぞ?大技は必要あるまい」

「…ここに、更に上乗せする!」

ティグルは、詠唱を始める。

「火の名を謳う、我が名は『ティグル・グリフィノー』。名の契約に従い、血の盟約に応えよ、ロイエ・ティナ」

火柱が、まるで巨樹の如く太さを増した。

ヒノモトの空を、夕焼けのように焦がす業火の巨樹。

それは、ミルトゥワの神木ユグドラシェルを思わせる荘厳さ。

レーヴァテインの全スペックに上乗せした、火の精霊女王召喚。

上位魔族でさえ、これは耐えられまい。

これを見て。

「はははははははははははははは!」

ダンドリッジは笑った。

こんな可笑しい事はないとばかりに。

「兄弟仲良くベッドに並ぶか!」

「何が…?」

ティグルの表情から笑みが消える。

バレているのだ、作り笑顔は必要あるまい。

正直に…疲弊した顔を見せる。

「リュート戦でヴィゾーヴニル・キルドを1発放った。そしてリュートを救う際に1回、精霊女王召喚を使ってしまっている。魔力の枯渇は深刻だな?」

「…お互い様だろ」

ギリ、と歯噛みするティグル。

当然だ。

ここに来るまでに、両者何戦しているのか。

余力がある方がおかしい。

「でも決め技があるだけ、僕の方が有利だろ。ダンドリッジに、これに対抗できるだけの切り札があるのかい?」

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