天神の系譜の奇妙なオムニバス
なかなか爆煙が収まらない。

完全に焼け野原と化した穢土の城下町が、ようやく朧気ながら見える程度だ。

生きているのか?

どちらも息絶えているのではないか?

大久保が、アマリリスが、ベルが、飛行船から地上を見つめる。

…微かに、動くものがあった。

目を閉じ、横たわるティグル。

煤けて、焼け焦げて、傷だらけになった体を投げ出している。

酷い怪我だ。

だが、五体満足でいるだけはいい。

ダンドリッジの姿は、影も形もなかった。

消し飛ばされたか、あの上乗せされたヴィゾーヴニル・キルドで。

肉体さえ残さず散滅してしまったか。

…いや。

この焼け野原に、不似合いなものがヨロヨロと飛んでいた。

1匹の小さな蝙蝠。

まだ爆発の煽りの風残る中、よろめくように羽搏く。

「…やあ」

ティグルが、苦笑いした。

「まだ飛べるんだ…凄いなあ…僕はもう立てそうにないや…」

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