天神の系譜の奇妙なオムニバス
「無礼じゃないけどさあ」

ティグルはアマリリスの顔を見た。

「そんなに顔近付けられちゃあさあ、チューしちゃったら困るじゃん」

「……」

それはそうだ。

大浴場で裸で遭遇してしまっても、意にも介さないような女と、キスをしてしまっては迷惑だろう。

ましてや悪巧みが災いして、ティグルにこんな大怪我をさせる羽目になってしまった。

いや、もしかしたら、ティグルは大好きな弟が死にかけた事の方を怒っているかもしれない。

ティグルは優しいから、決してそれを表には出さないが、少なくとも良い印象を持たれていないのは…。

「で、今度は何しよっか?」

「…………は?」

ティグルの言葉に、アマリリスはキョトンとする。

「やっぱり鉄板は、父さんやお祖父さんみたいな放浪の旅かな。アマリリス、どこかいい惑星知らない?出来れば戦闘技術が発達した惑星がいいかな。勇者としての修行にはもってこいだし」

「怒って…らっしゃらないのですか…?」

「何を怒るのさあ」

ケラケラ笑うティグル。

「昔からアマリリスは、僕やリュー君がグリフィノーとして強くなる為の大切な導き手だよ。試練を与えてくれる、甘やかさないでいてくれる。大切なパートナーだよ」

布団の中から伸ばしたティグルの手が、アマリリスの小さな手を握り締める。

「リュー君には古奈美がいるから…もう独り占めしてもいいかな」

そう言って、ティグルはアマリリスを引き寄せた。

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