【完】☆真実の“愛”―君だけを―2
□沙耶side■



京都の町。


かつて、都があった場所。


“契りを結ばん、君を想ふ。ここに封じよ、始まりの巫女。扉を開け、刻を越え、今、物語を始めん”


……頭の中で、語るのは誰?


この街に踏み込んでからである。


相馬と別れ、京都の町を歩くこと、一時間。


「お嬢ちゃん」


道端で店を開いているおじいさんが、話し掛けてくる。


「綺麗ね。綺麗な……桜の扇子」


飾り物として、部屋に飾るのも悪くないものだ。


「お嬢ちゃんは、綺麗な漆黒の髪をしているね。長いみたいだし、この髪飾りはどうだい?」


差し出された、紅蓮の花。


「鮮やかで、緻密な作りね。赤だから、鮮やかな浴衣に合いそう」


どうやら、髪飾りらしく、髪を纏めてあげやすそうなものである。


「丁度、今日の夜、大きな夏祭りがあるんだ。そこで、つけたら良い」


「夏祭り?」


基本的に行かないんだが……今日、この町であるのか。


言われてみれば、提灯がかかり始めている。


「今日のは一段と大きくて、賑わうんだ。お嬢ちゃんは、ここの人間かい?」


「いいえ。ここから、一時間半ぐらいかかるところから、遊びに来たの。もう、暇で、暇で」


相馬が誘ってくれなければ、相変わらず、私はゴロゴロしていただろう。


「そうかい。……遠いところから、来たんだねぇ」


優しい笑みを浮かべるおじいさん。


何か、見ていると癒される可愛さだ。


「おじいさんは、昔からここにいるの?」


「そうだね……生まれたときから、ここにいる」


目を細めた、おじいさん。


「この町を走り抜け、わしらは暮らしてきたんじゃ」


おじいさんの視線の先、そこにいるのは若者たちで。


「あの若者のように、お嬢ちゃんぐらいの年頃は、甘酸っぱい記憶もあるんじゃよ」


真っ黒だった髪は、真っ白になり、ハリのあった顔は、皺だらけ。


「お嬢ちゃんも、出逢いは大切にせんとな」


微笑んだ、おじいさん。


若干、関西弁が混じった話し方は、父さんを思い起こさせた。

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