【完】☆真実の“愛”―君だけを―2


(……愛してる)


その、たった一言を口にできたなら。

どうしようもない、願いが胸を焼く。


「……帰るぞ」


沙耶はうなずき、俺から離れる。


何故か、その行為すら嫌で。


彼女を、そばに引き寄せた。


「……っ」


見えた彼女の瞳は、不安で揺れていて。


過去を思い出したせいで、傷ついているのは見てとれた。


(ごめんな……こんなやり方しか知らない)


愛してる人にはどうすればいいのか、分からない。


甘えるしかない。


この時でさえも。


手を伸ばし、抱き締められるなら。


大丈夫だと、すべてを引き受けてやる力が、俺にあるのなら。


すべてを投げ出して、今すぐに、沙耶をこの手にただ、抱き寄せたいと願う声も。


俺はまた、無視するんだ。


泥沼に嵌まるように、溺れていくような感覚に囚われて、俺は、夜道を沙耶と歩いて、帰った。


< 125 / 759 >

この作品をシェア

pagetop