【完】☆真実の“愛”―君だけを―2


「……相馬!」


草志に呑み込まれかけた、意識が浮上する。

心のナカの、かつての自分。

叱咤すると、胸が痛んだ。


ゆっくりと、振り返ると、沙耶がいた。


微笑んで、汗を流して、立っていた。


「良かった、ここにいて……」


「お前、何で……」


「この屋敷広いよね。お陰で迷っちゃった」


「いや、まぁ、そうだろうな……って、じゃなくて」


広いのは、分かっている。


だって、正門を通ってからは、車で、玄関まで十分かかるのだから。


「飯食ってろっつたろ?」


「相馬がいないと、楽しくないもん。ほら、いい月夜だからさ、団子食べよ!」


良い月夜。


確かにその通りだとは、思う。


「……どうしたんだよ。この団子」


沙耶の横に腰を下ろし、彼女が渡してた串団子を受け取りながら、その入手先について尋ねた。


「なんかね、土倉さんって人が作ってくれているんだって!美味しいからって、京子さんがくれたの!」


土倉……御園のお抱えの料理長だ。

確かに、彼の料理は美味しい。

だが、どうしても、今は食べる気になれなかった。


「美味しい!」


目を輝かせ、喜ぶ沙耶。

沙耶の笑顔は好きだ。

そして、それを近くで見られる自分に安堵していることにも、気づいている。


「良かったな。俺のぶんもいるか?」


好きな人がいると言った、沙耶を手放せない自分。


罪悪感に苛まれながらも、団子を差し出す。


「……何かあった?」


けど、沙耶は、首を横に振って。


優しい声音で、訊いてきた。


「あ?」


「食欲が無さそうっていうか……元気がない気がするから」


洞察力に長ける、沙耶。


俺のことでも、よく見ている。


「夏バテ」


取りあえず、適当に答える。


けど、それも、彼女に一蹴されるのだ。


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