【完】☆真実の“愛”―君だけを―2
■相馬side□



「ありがとう!」


沙耶に本当の笑顔が、戻ってきた。


それだけで、嬉しくて。


「じゃあ、気を取り直して、どっか出掛けるか!」


「えっ……仕事は?」


「休み」


「……えっと、サボり「じゃないから、安心しろ!」……あ、良かった」


相変わらず、沙耶はずれている。


絶対、反応を間違えている。


「……で、どこ行きたい?」


「……それ、私が決めていいの?」


お人好しで、絶対に表には立たないタイプ。


「当たり前」


「んー、と、じゃあ……」


「……すぐにできるやつは、却下な。どうせなら、動物園とか、水族館とか……」


ずれている分、昨夜のような返答をしないよう、先手を打っておかなければ。


「水族館!」


俺が例を出すと、沙耶が水族館で目を輝かせた。


「行ったことがない!行きたい!」


「……急に元気になったな」


「だって、諦めてたんだもん!」


多忙の両親、兄に対する罪悪感。友達は作らないし、柚香もなかなかの多忙な人間。


確かに、今までの沙耶の生活では、水族館とかは無理な遊び方である。


「ずっと、一人だったから……本を、読んでたの。父さんの書斎に、ある本を」


沙耶の頭がいい理由。


それは、健斗さんの血筋のせいだけではない。


「幼い頃から、何でも読んでたんだよ」


紐解かれる、沙耶の半生。


「フフフッ、こんな風に、人に自分のことを話すのは初めてかも」


「そうか。じゃあ、じっくり、聞いてやる」


「えー、つまらないよ?」


「いいから、聞かせろ。ただし、準備をしながらな」


「はーい!」


俺を殴ったときの元気さ、何があっても、笑顔でいる気丈さ。


そして、隠し持った弱さ。


調べても出てこなかったことを、沙耶が語る。


沙耶が苦しんでいることを、少しでも。


笑った沙耶の頭を、俺は微笑みながら撫でた。


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