【完】☆真実の“愛”―君だけを―2
18年前―……
『健斗!』
『おお、来たか。朝陽、アイラ、大樹』
姫宮総合病院で、黒橋健斗の一人娘が誕生した。
母は、黒橋ユイラ。
黒橋健斗の愛情を一身に引き受けているだけあって、美しい女性であった。
そして、生まれた一人娘も、黒髪の漆黒の瞳。
全体的に母親に似ていて、目元は父親似。
『久貴の嫁からもらって、“沙耶”と名付けようか』
黒橋沙耶が誕生する少し前、事故死した健斗の親友の久貴は、最期の時まで、妻を想っていた。
そんな彼は愛妻との間に生まれた息子に異常なまでの愛情を注いだのだが、結局、息子を遺して逝ってしまった。
そんな彼の奥さんの名前は、松山沙織(まつやま さおり)
そこから、健斗は取ったのだった。
『沙耶か……良い名前だな』
『そうやろ?…………勇真、君も入ってきいや』
小さな女の子を抱いた健斗は朝陽に微笑みながら、病室の外に向かって、そう言った。
扉のところから、ひょっこりと顔をだした勇真と呼ばれた11歳の少年……久貴の遺した、愛し子だった。
『俺、も、そっちに行って良いの……?』
『君も僕の息子やろ?君の妹や、抱いてやり?』
久貴死後、勇真を融子にした健斗は、優しく笑って、勇真を手招いた。
躊躇うように寄ってくる勇真の頭を撫で、健斗は沙耶を抱かせる。
『小さい……』
『ん。やろ?守ってやってな、妹を』
『はい……』
柔らかく微笑んだその顔は、久貴そっくりで。
誰もが、彼を守り抜こうと思ったらしい。
『大樹も抱いてやり』
同じく、11歳のアイラと朝陽の息子……表向き、戸籍上は健斗とアイラの息子ということになっている子供の大樹は、複雑そうに触れた。
小さな、小さな、存在。
これが、私の生の始まり。