【完】☆真実の“愛”―君だけを―2


「でも、沙耶……」


彼がこんなにも取り乱すのは、妻の前でだけ。
でも、私のまえでもこんなに戸惑うということは、それだけ、相馬を大切に思っているのだろう。


「……甲斐、今まで、ありがとね。紗夜華さんと幸せになって?」


相馬を見ると、辛い。
相馬に関するものも、すべて。

見るだけで、心がえぐれるほどに、辛い。
とっくに心なんて、空洞なのに。
これ以上、私の心は何を失うというのだろう。


「紗夜華は……」


甲斐の恋人は、学校もあまり行けていないらしいが、儚げな雰囲気をもった美人さんだ。

私と同じようで、同じではない人。
絶対に、同じにはなれないひと。


「……うん。紗夜華さんは幸福者だよ。ありがと。甲斐。私と仲良くしてくれて。でも、もう、いいの……私に関わると、不幸になるから」


それは真実。
実際、私を可愛がってくれた人は消えてしまった。


「沙耶!」


甲斐の引き留める声が響く。

惨めにも、愚かにも、私はその手を取ろうと、取りたいと願う。……けど、それは無理だから。


「平気!……平気だから……相馬には、言わないで。お願い……」


相馬に一番関わりが深い人。

本当なら、柚香からも離れなければならないだろう。
柚香の彼氏は、千歳。甲斐の弟だ。

相馬への繋がりは、私が信頼する友人関係に必ず、繋がっている。

つまり、相馬から完全に離れるためには、相馬に忘れ去られるためには、大事な幼馴染みの柚香とも関係を切らなければならないということだ。

それは、辛い。

辛いけど……


「私の代わりに、相馬に、柚香に、みんなに、伝えて?――どうか、幸せに。って」


涙が流れた。

これは、悲しみの涙じゃないと信じたかった。

私から皆を守ることが出来るという、嬉し涙であってほしいと願った。

醜いと言われるかもしれないと思うほどに、涙を流したまま、沙耶は顔を歪める。

一生懸命、甲斐に微笑み、沙耶は駆け出す。


「さよなら」


沙耶のいた場所に、沙耶の涙が未練がましく落ちた。

< 359 / 759 >

この作品をシェア

pagetop