【完】☆真実の“愛”―君だけを―2


「……ごめんね」


沙耶は、下腹を優しく撫でた。


現在、七ヶ月。


大事な、大事な、宝物。
沙耶が最後に望む、最初の願い。


「もうすぐ、クリスマスだね……」


――この子達を生みたい。


顔を見て、腕に抱きたい。……でも、できない。


『ママ』って、呼んで欲しい。


いっぱい、いっぱい、愛してあげたい。


甘え方や、頼り方、いろんなことを教えて、愛情をいっぱい、注いで。


両親のような、親になりたい。
包み込むような、親に。
けど、私は。


「ごめんね……っ、弱いお母さんでごめんなさい……っ」


あふれでる涙は止まらず、沙耶の心を締め付けた。


私が命と引き換えに生むことになる赤ちゃんに、親を遺さない私は、最低だろう。


いや、遺すことにはなるか。


大兄ちゃん達が、了承してくれたから。


でも、それでも、本当の親ではなくて。


私は最低だ。


親としても、人としても。


それでも、相馬を縛れない。縛りたくない。
愛さない。愛せない。愛するつもりはない。


繰り返すように、呟いていた言葉が音を鳴らし、私の心を染め上げる。


愛した人は、愛してはいけない人。
信じた人は、縛ってはいけない人。

求めている人は、相馬。


(逢いたい……)


別れを告げると決めたのに。
簡単に揺らぐ、私の心は、激しい痛みを沙耶に与える。それと同時に。


「っ……!!」


激痛が、沙耶を襲った。
悲しみからのではなく、息も出来ないそれは、お腹を締め付ける。


また、襲いくる、恐怖。

……あの日と同じ。

“失う″恐怖。


込み上げる吐き気は、意識を遠ざける。


あなたを愛していたことを覚えておきたい。


息を引き取る瞬間まで、あなたを忘れたくない。


この子達は、失いたくない。


唯一の、相馬との証。


繋がりを失いたくないの。


「朝陽……お願いよ……私から、この子達を、奪わ、な……ぃ、……」


沙耶の白い足には、赤い鮮血が一筋、流れた。

その日は、偶然か。


『ふふ、神様は、意地悪ね』


――雪が、降っていた。


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