【完】☆真実の“愛”―君だけを―2
「辛かったんだろう」
カルテを見て、言えば。
「っ、……そ、う、ですね……」
彼女は、悲痛に顔を歪ませる。
すべてに別れを告げること。
それが、彼女の意思だった。
「流石に、友達と離れるのは……お兄ちゃんたちは、お見舞いに来てくれるといっていましたが」
「バレないようにしないとね……」
沙耶ちゃんのお兄ちゃんというからには、それなりにルックスが目立つだろう。
「ふふ、ですね。……ところで、さっき見てきたんですけど、桜の隣の部屋って、空いてます?」
「え?桜?……空いてるよ」
薫の恋人であり、みんなが様子を見に来る当主との長い因縁での一番の被害者。
「私、そこに入ります」
「……バレない?」
「相馬達を見ていた限り、バレないと思います。死角にはいるじゃないですか。名前も、変えますし」
「黒橋沙耶とは、使わないのか?」
「お父さんと相談して、“柏原奈櫻”(かしわばら なお)と名乗ります」
「柏原奈櫻?」
「死んだ、おばあちゃんの名前なんです。良いですかね?」
「まぁ、できないこともないけれど……」
資料は、黒橋沙耶として整理をすれば良いのだから。
こういう融通が利くところでは、院長を勤めていて良かったなと思う。
こんなにも小さな女の子を、守ることができるのだから。