【完】☆真実の“愛”―君だけを―2


「恨んでねぇよ。……恨む理由がないしな」


目を見開いた、父さん。


恨まれていると思っていたのか?失敬な。


「父さんは、俺を守ってくれただろ?その度に、俺に謝ってたじゃねーか。なんで謝られているのか、謎だったが……別に棄てられたとか、思ってねぇよ。あんたは、どっちかって言うと、最高の父親だしな」


そう言って笑いかけると、父は箸を落とした。


「おいおいおい……」


「…………終わらないと思っていた。憎まれているって。でも、ちゃんと、大人になったんだな。終わらせなくちゃ、この命に変えても。そんな、俺の思いも越えて……ありがとう、相馬……」


父は落ちた箸に気をくれず、顔を覆って、そう呟いた。


「……」


「この家の闇からは、逃れられないと思っていたのに。お前は、逃げ切ったんだな……凄いよ、本当に、凄い」


若くして、捕まってしまった父さん。


俺は、笑った。


「側にいてくれた奴がいたからな。大丈夫だよ、あいつのその一言に救われたんだ。確かに、父さんがいなくなってからの二年間は、俺にとっては地獄だった。子供だった俺にとって、この家は“世界”であり、親は“神”だったから」


闇を持つ、“世界”。


自分を否定する、“神”なし同然の“世界”。


そこは、本当に地獄だった。


「それでも、三年間は、父さんが守ってくれていたから……俺は、五年間ぶんの不幸を二年間で終わらせることが出来たし、何より、子供の目から見ても、あの人は崩壊していた。だから、裏切られたと思っているのは、あの人に、母親の愛情を期待して、暴力しか返ってこなかったことだけ……陽向さんがいるときは、陽向さんが父さんのように庇ってくれたから、大丈夫だ」



“神”に頼ることを許されず、“世界”は俺を追い詰めた。


“世界”は“俺”を否定し、疲れた頃には、恐らく、もう、“俺”も“壊れていたんだ”。


そんな闇の“世界”が広がり、現れた一人の女。


「本気で愛している女が出来たんだ。あいつに出会ったあの日に、俺は救われた」


殴られたことが、始まりだった。


ただ、あの時は、滅茶苦茶イラついたけど、今は出会えて良かったと思う。


でなければ、今、ここに自分はいなかった。


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