【完】☆真実の“愛”―君だけを―2
□桜side■




「あれー?薫?今日はいつもより、早いね!」



いつも、夜が更けてから来る薫が来たのは、午後六時頃。


「仕事は?もう、終わったの?」


「ああ……」


私のもとに歩み寄ってきた薫は、私を抱き寄せると、ホッと息をつく。


「……なにか、あったの?」


様子がおかしい。


そりゃ、今日は5月8日で、相馬の様子がおかしくなる日だけど……なんで、薫まで?



「ん……ちょっと、な……」


「……沙耶のこと?」


「っ……ああ。相馬が、異常なくらいに参ってた。俺は、かける言葉さえ、思い浮かばなかった……」


察しがよくて、ごめんね、薫。


でも、傷ついた貴方を一人にはできない。


冷酷非道で、悪の噂ばかり目立つ薫。


実質、嘘ではないが、それ以外にも良いところはたくさんある。


私は、それを知っている。


「……今日な、ジジイが、沙耶から預かっていた手紙を渡しに行ったんだ」


「うん」


「勿論、相馬は見に覚えがない。それも、沙耶が雪さんに預けたものだったから。三通目になる、その手紙。中には、二つ目のネックレスが入っていてな……それを、つける後ろ姿が、怖いくらいに儚かったんだ」


両親を失い、祖母を失い、叔父を失い、部下を失い……人の死を見届けるばかりの人生を歩んでいる私達は、人の死に敏感だ。


普通に、極道ならば。


ここまでなかったかもしれない。


けど、これが、私たちの間での普通で。

< 595 / 759 >

この作品をシェア

pagetop