【完】☆真実の“愛”―君だけを―2


それは、無意識ゆえの言葉だった。


「……お前に出逢わなければ、良かったのに」


出逢わなければ、愛すこともなかった。


(お前を、愛さなければ良かった……)


「……」


「……出逢わなければ、」


「……」


「……お前が、俺の前に現れなければ……」


恐らく、俺の世界は闇に染まったままだった。


でも、人を愛する感情で、人生が楽しくなったとしても、そのせいで愛しい人間を傷つけていては話にならない。


「俺の前から、消えてくれ……」


軋む心。


この世で一番、醜い嘘。


「頼むから……」


沙耶が今、どんな顔をしているのか、わからない。


(苦しめたい、訳ではないのに)


御園の重責は、沙耶に背負わせられない。


自分の嘘に、心が痛む。


心が、歪む。


嘘の言葉に。


「………………嘘だ」


暫くすると、沙耶はそういった。


俺に大人しく、抱き締められたまま、彼女は言う。


「なら、ここで私を殺してよ。……出来るでしょ?私に、消えてほしいのでしょう?大丈夫、相馬は罪に問われないわ。急な発作が起こり、死んだって名目で、今なら、私を殺せるわよ」


震えているのは、俺の体?


それとも、沙耶?


「ほら、ナイフだってあるわ。思い切って、刺しても良いわよ」


沙耶から立ち上る怒りは、具現化する。


「貴方が与えた、石を取り出せば?私は、貴方の石……貴方の封力石が体内に入っている限り、私は生き続けることができるわ。裏を返せば、それがないと生きられない。体が弱りきっているから。でも、貴方のためなら、この石を返す。死んでほしいと願うならば、死んであげる。目の前で飛び降りるのも良いわね?私は石がある限り、貴方の意思に従わざるえないもの」


(……封力石)


かつて、沙羅に与えられたもの。


眠る、沙耶に与えたもの。


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