【完】☆真実の“愛”―君だけを―2


「……俺を、嫌いだといってくれ……」


(愛していると、言わないでくれ)


自分の汚さが、目立ってしまう。


沙耶を傷つけたくないのに、俺は傷つけることしかできない。


抱き締める腕に、力がこもる。


沙耶は、何も言わなかった。


言わず、ただ、静かな部屋で息をしていた。


俺の腕の中で、生きていた。


「……それは、嘘?真実?」


沙耶は、静かに問いてきた。


だから、俺も静かに返した。


「真実だ」


「そっか……」


(嘘だ。俺のことを嫌いなんて、言わないでくれ。俺から離れていかないで。側にいて)


母さんの背中が蘇る。


どんなに走っても、追い付かなかった大きな壁。


(俺も、母さんのようになるかもしれない。知らないうちに沙耶を傷つけて、苦しめるかもしれない)


それは、嫌だから。


(嫌いといってくれ。俺の心が張り裂けようと、お前が傷つかないのなら、それで良い。だから、だから……)



「……忘れてくれ」


「……」


「俺のことも、何もかも。俺は、お前の前から消えるから。だから、忘れてくれ。俺が今、言ったこともすべて」


(……許してくれ)


最後まで、沙耶を傷つける。


どうして、俺はうまく生きられないんだろう。


母さんのことでも、沙耶のことでも。


愛した人間相手にだけ、うまくいかない。


(俺を、憎め)


憎んでくれたら、忘れられるから。


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