【完】☆真実の“愛”―君だけを―2


「……言わないし、忘れない」


(お願いだから、憎んでくれ)


「どんなに頼まれても、忘れないから。相馬が、私に言った言葉」


凜と言い放つ沙耶の声に、迷いはない。


(なんで、お前は、そんなに強くいられる?)


俺には、無理だ。


お前を突き放すことですら、こんなにも心が痛む。


「ねぇ、相馬」


俺の手を振りほどき、沙耶は俺を見た。


(……見るな)


俺は、お前よりも汚い。

俺のなかには、“あいつ”がいて。

“あいつ”は間違いなく、お前を傷つけるのだから。


「相馬」


俺の名前を呼ぶな。


「私を見て」


俺を見るな。


“あいつ”が目覚めているのは、分かっている。


お前と目を合わせたら、俺は……


「……大丈夫、だから」


沙耶は俺の頬を優しく包み、目を合わせてきた。


“あいつ”の嗤う、声がする。


やめてくれ、お前を傷つけてしまう。


この手で、触れてしまう。


「…………変わった、ね?」


沙耶にそう言われ、俺は唇を噛んだ。


“あいつ”が、お前に触れる。


「……っ、なんで……」


逃げれば、良いのに。


傷つけられるのは、わかっているくせに。

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