【完】☆真実の“愛”―君だけを―2
「や、別に、お金に困っている訳じゃなくて……実家に帰れば、あるし」
その通り。
沙耶の家も金持ちであるのだから、金に困らないはずだ。
「じゃあ、何で着れないの?」
すると、沙耶はぼそりと呟く。
「……似合わないから」
(そんなことはないと思うが)
「着てみないとわかんないじゃん!今度、焔棠家においで!薫が買い溜めてた私の服、貸すからさ!」
そんな桜の言葉に沙耶が苦笑いを返したとき、
「桜!」
遠くから、一人の男―今回の新郎、薫が近づいてきた。
「薫!」
まるで、飼い主を見つけた犬のように薫のもとに走り寄り、抱きついた桜。
「ちゃんと、化粧してもらったか?夏翠がお前のことを探していたけど―……」
「あ!」
きれいに整った髪、きれいなドレス。
それを身に纏っているはずなのに、桜は変わらず、走る。
「…………おいおい、良いのか?」
「別に、あいつのドレスだし」
「そういう意味じゃねーよ。体調の方だ」
「最近は、薬を飲み始めてな。それで、だいぶ、落ち着いているが……」
薫の桜を見る目。
それは、とても優しいもので。
俺たちの会話は、幼馴染としての普通の会話。
ここに、極道とか、それを統する者とかの決まりはなく、俺たちは昔、施設で出会った頃と同じように笑い合う。