偽装新婚～イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない～

花園商事は古い体質の会社だ。いまだに、男は妻帯してこそ一人前といった考えを持つ人も多いと聞く。本人も言っていたとおり、光一さんは結婚という事実だけが欲しかったのだろう。だから、簡単に結婚できそうな女を探した。それが私。そして、私は光一さんの思惑通りに簡単に結婚を承諾した。

「あんた、わかりやすく結婚を焦ってたもんね〜二十九歳なんて、まだまだ若いのに」
悠里が苦笑する。
「それは既婚者の余裕よ！受付から総務課に異動したら、ますます出会いもなくなるし。それに、私、三年も彼氏いなかったんだよ。そりゃ焦りますよ。てか、焦らなきゃまずいでしょ〜」
「で、焦った結果がこれでしょ。三十路を前にしてバツイチの方が先行き厳しくない？」
「うっ‥‥悲惨な結婚に傷ついた私を支えてくれる優しい彼‥‥とか現れないかな？ありがちだけど、ずっと友達だと思ってた男の子に突然告白されるとかさ」
いま誰かに愛を告白なんてされたら、全然タイプじゃなくてもコロッといってしまいそうだ。あぁ、でもまだ離婚してないからそれはまずいか。今の光一さんなら、ラッキーと言わんばかりに慰謝料を請求してきそうだもんな。
「あんた、男友達いないじゃん」
「もうっ。ささやかな現実逃避くらい許してよ」
そうだった、彼氏どころか最近は連絡を取り合う男友達すらいないんだった。
‥‥仮に離婚が成立したとして、その後は一生独身⁉︎ 総務課でコツコツ仕事を頑張って、立派なお局様になって、いずれは猫でも飼う‥‥とか？ちょっと寂しすぎない？？

「‥‥というか、別に無理に離婚しなくていいんじゃない？ いいじゃん、エリートの妻で何不自由のない生活。そこに愛がないってだけでしょ」
悠里の声は冷たい。忠告を聞かずに大失敗した私に本気で呆れているようだ。