偽装新婚～イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない～

梨花さんは少しむっとして、ぷいっとそっぽを向いた。
「……仲良く暮らせる日なんて永遠にこないわよ！離婚するんだから、私たち」

私はためらいながらも、おずおずと口を開いた。

「初対面で余計なお世話なのは、十分承知してますけど……。でも、意地をはっても、いいことないと思います。あとでどんなに後悔しても、取り戻せないことってあると思うから。ーー梨花さん、さっきから一度も旦那様のことは悪く言ってないですよね？」

むっつりと押し黙った梨花さんの目に、うっすらと涙が浮かんだ。

やっぱりそうだ。お姑さんとはソリが合わなくても、梨花さんは旦那様のことを愛しているんだ。
それならば、離婚以外に選べる道がきっとあるはず。

「そうよ、そうなの！母親を捨て切れない情けない男だけどさぁ、そういう優しいところがあの人のいいところでもあるの。もう、すっごい腹立つけど、嫌いにはなれないのよ〜」

梨花さんはうえーんと子どものように声をあげて、泣き出した。
ゴージャスな美人なのに、素直で可愛らしい。光一さんのお姉さんはとても素敵な人だ。

「話が違うぞ。離婚したくないなら、最初から言っといてくれよ。俺、少しでも有利な条件を引き出す方向でって、弁護士と話し合ってたのに」
光一さんはついていけないと、呆れ顔だ。
「光一は女心に疎すぎるのよ！ね、華ちゃん？」
梨花さんにそう言われて、私は思わずうんうんと、うなずいてしまった。

その後も、梨花さんと私は女子会に花を咲かせていた。光一さんはすっかりリョウ君の子守役だ。

「正直さ、光一が結婚したの意外だったのよ。あの子、筋金入りの女嫌いだったからさ」
梨花さんが光一さんに聞こえないようなささやき声で私に言った。
「けど、華ちゃんに会ってちょっと納得したわ」
「な、なんでですか？」