偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「じゃ、華はどんな予想してたワケ?」
光一さんは、いたずらっぽい眼差しを、私に向けた。
「そうだな~ふたりは長年付き合ってた恋人なんだけど、どうにもならない事情があって別れちゃったの。でもその時には彼女は妊娠してて、光一さんには内緒で出産。その後、ふたりは運命の再会を果たす!みたいな……」
「昼ドラか!」
「どちらかといえば、ロマンス小説かな。梨花さんみたいな強い美人がヒロインでね」
私はそういう類の波乱万丈な恋愛小説が大好きなのだ。
妄想を広げる私を横目に、光一さんは拗ねたような顔をする。
「浮気とか愛人を疑われてたのは、結構ショックだな。華と真剣に向き合ってたつもりだったのに」
「それは、やっぱり、自信がなくて。ほら、どう贔屓目に見ても、私ってヒロインより脇役のほうがしっくりきちゃうし」
だから、なにも言えなかったし、なにも聞けなかった。いま思えば馬鹿みたいだけど。
「あっ。でもさ、光一さんだって私と松島さんのこと疑ってなかった?」
私は反撃をこころみる。
「疑ってはないよ。ただ、むかついてただけ」
「偶然会っただけなのに?」

光一さんは自由になる左手を伸ばし、私の頭に触れた。そのまま自分の方にそっと引き寄せてくれた。私は光一さんの胸に顔をうずめる。
「華と一緒。ちょっと自信なくしたんだよ。俺みたいな歪んだ人間より松島みたいな真っ当な男のほうが華を幸せにできたんじゃないかなって」






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