偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
梨花のところから帰宅すると、夕飯の支度を済ませた華が明るく出迎えてくれた。
「おかえりなさーい。梨花さんとリョウくん元気だった?」
「うん。引っ越し落ち着いたら、遊びにきたいってさ」
「もちろん大歓迎だよ」


リビングにはたくさんの段ボール箱が積まれてある。来月頭に俺たちは引っ越しを予定していた。解決済みとはいえ、ストーカー男に自宅を知られているのはいい気分ではないし、将来的なことを考えればもう少し広い部屋が欲しいと思いはじめてもいた。

デートがてら新築マンションの内見に行ってみたら、華が一目で気に入ってしまったので、その場で購入を決めたのだ。

美味しそうにご飯をほおばる華を眺めながら、俺は梨花に言われた言葉を思い出していた。

(俺がずっと人前でいい人の演技を続けていたように、華も無理している
ときがあるんだろうか)

考えてもわかるはずもないので、聞いてみることにした。
返ってきた答えは、なんとも彼女らしいものだった。

「え? 考えたこともなかったな」
華は続ける。
「だって、受付では私が一番先輩だから仕事量が多いのは当たり前だし、頼ってもらえるの純粋に嬉しいよ」
「掃除のおばちゃんたちは?」
「おばちゃんたちはね、いつもお菓子とかくれるからそのお返し!ちょっと
のお手伝いで、美宝堂のどら焼きだよ!どう考えても、得してるの私のほうでしょ」
華はニコニコしながら、美宝堂のどら焼きがいかに美味しいかを俺に力説してくれる。

(こいつには、一生敵わないかも)

俺はそんなことを思いながら、耳に心地よい華の笑い声を聞いていた。

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