偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
第2章 彼の本心は?
結婚式から二週間が経った。私は結局なにも決断できないまま、光一さんとの気まずい同居生活を続けていた。

始業十分前。ロッカーの内側についた小さな鏡の前で、髪型とメイクをチェックする。ゆるくカールするロングへアはパーマではなく天然だ。子どもの頃はからかわれたりすることもあって、コンプレックスだったけれど、今となってはセットいらずで便利だなと思っている。ブラウン系のアイメイクにピンクベージュのリップ。受付嬢としては地味かもしれないけど、私の純和風で薄い顔立ちにはこれが一番しっくりくるのだ。そのまま、にっと口角をあげてみる。

「よしっ。今日も一日頑張りますか」
以前なら憂鬱だったはずの月曜日の朝なのに、最近はむしろ気分がいいくらいだ。
「あれ〜? 華さん、なんかご機嫌ですね? いいなー、やっぱり新婚さんは幸せなんですね!ずるーい、私も鈴ノ木さんと結婚したかった〜」
いつものごとく、時間ギリギリに出勤してきた後輩の美香ちゃんがかわいらしく頬を膨らませる。
「‥‥は、はははっ。ま、まぁ、おかげさまで」
ひきつった笑顔を浮かべるしかない私。‥‥言えない。この上機嫌はその鈴ノ木さんと離れられるからだなんて、絶対に言えない。少なくとも、それなりに忙しい仕事中は余計なことを考えなくて済む。
今の私は、それだけでずいぶんと気が楽になる。平日の夜は光一さんの帰りも遅いしね。

「鈴ノ木さんて家ではどんなふうなんですか? 甘えん坊だったりします?きゃー、羨ましい!」
なんとも答えづらい質問を、美香ちゃんは無邪気に投げかけてくる。でも、気持ちはわかるんだ。光一さんは会社のアイドルだから。私だって、もし、自分以外の受付仲間の誰かが光一さんの妻になったのだとしたら、同じようにあれこれ質問していたと思う。


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