偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
松島さんも光一さんも、驚いた顔で私を見る。場の空気がすっと冷たくなった。
あんまり強く否定するのも、おかしかっただろうか。でも、いまの光一さんに私が彼と会えたことを喜んでいるなんて思われたくなかった。私にだって、多少のプライドはあるのだ。
「ふぅん」
光一さんは私をちらりと見たが、それ以上はなにも言わなかった。
「ごめん、ごめん。会社でひやかされたら、そりゃ嫌だよな」
微妙な空気になってしまった私と光一さんを、松島さんが慌ててフォローしてくれる。
が、光一さんは硬い表情のままだ。

そんな時、ちょうど受付に近づいてくるお客様の姿が目に入った。私はこれ幸いと二人に
「すみません、お客様みたいです」と告げて、受付に仕事に戻ることにした。

その日の夜。喧嘩したというほどでもないけれど、私たちの間にはなんとなく気まずい空気が流れていた。

(いや、気まずいのは、いつものことか)

会話らしい会話もない夕食を終えると、私は早々に自分の部屋へとひきあげた。
そして、いつもより早く布団に入ったせいか、夜中にふと目が覚めてしまった。スマホで時間を確認してみると、深夜二時だ。
トイレに行って、キッチンでお茶を飲む。

(変な時間に起きちゃったなぁ。寝つけなくなったら、どうしよう)

そんなことを考えながら自分の部屋へと歩いているとき、光一さんの部屋から明かりが漏れているのに気がついた。

(まだ起きてる?いやいや、もう二時だし、消し忘れだよね。もったいないなぁ)

勝手に部屋を開けるのは悪い気もするけど、朝まで電気をつけっ放しにしておくのはもったいない。
そう思う私は、貧乏性なのだろうか。
しばし迷った末に、私は彼の眠る部屋の扉に手をかけた。

「電気消すだけですからね〜」
誰も聞いていないのに、そんな言い訳をしつつそっと扉を開けた。

「どうかした?」
「ぎゃあっ」

勝手に部屋に入られた光一さんより私のほうが驚いてしまった。
彼は起きていて、ベッド脇にある小さめのデスクに向かっていた。
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