偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「なに?夜這いでもしにきたの?」
挑発するような笑みを浮かべて、
光一さんはそんなことを言う。
「ち、違います!電気消さずに寝ちゃったのかと思って……もったいないから、消そうかと」
勝手に部屋を開けたやましさから、
私の声は段々と小さくなっていく。
けれど、彼は部屋に入ったことに気を悪くした様子はなかった。

「華と違って、寝落ちなんてしないよ。もうすぐ昇進試験だから、それの勉強」
「どうせ私はすぐ寝落ちしますよ!それにしても、こんな時間まで?大変なんだね」
仕事も激務なのに、それに加えて勉強もなんて、一流企業勤務は本当に大変だ。そこは素直に尊敬する。

「別に。それだけの給料はもらってるし。それに、使われる側でいるより、使う側に立つほうが仕事は楽しい」
「そういうもの?」
「ま、こき使われてるばかりの華にはわかんないかもな」
「もう!いちいち嫌味なんだから。たしかに、私は向上心とかないかもしれないけど……」
「冗談だよ。仕事のスタンスなんて、人それぞれだから。華は華なりに頑張ってるんだから、いいんじゃない」

光一さんがふいに優しい目をして、そんなことを言うから、私の心臓は小さくはねた。

「あっ、そーだ。お夜食とかいる?なにか用意しようか?」

私は妻じゃなくてただの同居人だけど、深夜まで頑張っている人を応援したいと思うのは特別なことじゃないはずだ。

「別に華は気にせず寝てて……いや、やっぱりコーヒー頼んでいい?」
「うん!!」

『干渉するな』が基本スタンスの光一さんが、たとえコーヒー一杯でも私を頼ってくれたのが少し嬉しかった。
心がじんわりと温かくなったみたいだ。
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