偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
自分が飲むときは、楽ちんなインスタントで済ませちゃうけど、私は食器棚の奥にしまってある少し高価な珈琲豆を取り出した。
(別にね、これは愛情とかじゃなくて、ただの応援の気持ちだからね)
自分自身にそんな言い訳をしながら、丁寧に豆を挽いた。珈琲のほろ苦い香りは、どこか彼に似ている気がする。
翌朝。普段は私より早く家を出ることの多い光一さんだけど、さすがに昨夜は遅くまで勉強をしてせいか、ちょうど私と同じ時間に家を出ることになった。
「たまには一緒に行くか?」
彼がそう言ってくれたので、一緒に電車に乗って会社に向かった。
「私、お茶買ってから行くね」
会社に着いたところで、私はカフェテリアを指差した。
一階の奥にある社員用のカフェテリアには、休憩用のテーブルと自販機が置いてあるのだ。
「あ、俺も行く。さすがに眠いから、ブラックコーヒー買う」
あくびをかみ殺しながら言って、私のあとを追いかけてきた。
自販機の前でふたりで飲み物を選んでいると、休憩スペースにやってきた人たちの雑談が聞こえてきた。
彼らからは、私たちの姿は見えないのだろう。誰もいないと思っているのか、上司の悪口なんかを堂々と話している。
話の内容から察するに、光一さんと同じ営業部の人のようだ。
「知ってる人?」
私は小声で聞いてみた。営業部は大所帯だから、知らないって可能性もあるかもしれない。
「知ってる。課が違うから、あんまり話さないけど。俺より一年先輩だったかな?」
「なんか盗み聞きしてるみたいで、嫌だね」
「オープンなスペースで、聞かれて困るような話をしてるほうが悪いだろ」
その間も、彼らの会話は止まらない。
(別にね、これは愛情とかじゃなくて、ただの応援の気持ちだからね)
自分自身にそんな言い訳をしながら、丁寧に豆を挽いた。珈琲のほろ苦い香りは、どこか彼に似ている気がする。
翌朝。普段は私より早く家を出ることの多い光一さんだけど、さすがに昨夜は遅くまで勉強をしてせいか、ちょうど私と同じ時間に家を出ることになった。
「たまには一緒に行くか?」
彼がそう言ってくれたので、一緒に電車に乗って会社に向かった。
「私、お茶買ってから行くね」
会社に着いたところで、私はカフェテリアを指差した。
一階の奥にある社員用のカフェテリアには、休憩用のテーブルと自販機が置いてあるのだ。
「あ、俺も行く。さすがに眠いから、ブラックコーヒー買う」
あくびをかみ殺しながら言って、私のあとを追いかけてきた。
自販機の前でふたりで飲み物を選んでいると、休憩スペースにやってきた人たちの雑談が聞こえてきた。
彼らからは、私たちの姿は見えないのだろう。誰もいないと思っているのか、上司の悪口なんかを堂々と話している。
話の内容から察するに、光一さんと同じ営業部の人のようだ。
「知ってる人?」
私は小声で聞いてみた。営業部は大所帯だから、知らないって可能性もあるかもしれない。
「知ってる。課が違うから、あんまり話さないけど。俺より一年先輩だったかな?」
「なんか盗み聞きしてるみたいで、嫌だね」
「オープンなスペースで、聞かれて困るような話をしてるほうが悪いだろ」
その間も、彼らの会話は止まらない。