偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「次の異動で野間口課長のポストが空くけど、誰があがるかね」
「さぁね。あまってる奴は大勢いるけど、花形の一課の鈴ノ木あたりがさらっと持ってくんじゃない。あいつも、次の試験で資格は得るだろ」
「鈴ノ木ね〜。できる、できるって言われてるけど、あいつの親父ってうちのメインバンクの役員だろ。忖度ってやつかねー」
「まぁ、実力以上の評価受けてる気はするよな」
「羨ましい限りだよな」

(か、感じ悪ーい!陰でコソコソ、人の悪口ばっかり)

大体、光一さんはプライベートの人間性はどうかと思うところだらけだけど、仕事には本当に真摯に取り組んでいると思う。
私と結婚したのだって、仕事のためだと言っているくらいなのだから。

私は横目で、彼の様子をうかがう。
「まぁ、親父が役員なのは事実だし。
こういうのは、言われなれてる」
光一さんはそんな風に言って、ふっと笑った。でも、どことなく、その笑顔は寂しげに見えた。

「けどさ、お父さんのことくらいしか陰口のネタが思いつかないなんて……あの人たち、本当は光一さんに憧れてるんじゃない?案外、仲良くなれたりして」

おそらく、光一さんはこういう場面で、慰められたりすることは望まない。私が彼らに怒るのも、違う気がする。

光一さんは、にやりと不敵に笑った。
「かもな。俺が課長になった暁には、部下にしてやろうかな」

(よかった、正解だったみたい)

彼の瞳には、いつもの自信が戻っていた。
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