偽装新婚～イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない～

「誰でもいいってわけじゃない」
「自分で言うのも悲しいけど、私レベルの女なんて、道に歩けば当たるから大丈夫よ」
「俺は華と結婚生活を続けたいんだよ」
どの口が言うんだろうか。開いた口が塞がらないとはこういう状況をいうのだろう。
「＿＿だったらっ、少しは本音で向き合ってよ！いくらかでもマシな夫婦になれるよう努力して」
ついつい興奮して、私は声を荒らげる。でも、光一さんの言い分はあまりにも勝手だと思う。
「自分の理想像だけ押し付けないでよ。私の意見も聞いて、妥協点を探す努力くらいして。
夫婦だけじゃなく、それって人間関係の基本でしょ」
光一さんはむっつりと黙ったままなので、私はなおも続ける。
「美人でもないバカな女だから、言いなりになると思ってた？　それなら、離婚一択です。
慰謝料も財産分与もいらないから」
私ははぁはぁと肩で息をする。冷静に話そうと思っていたのに、無理だった。
自他ともに認める穏やかな性格だと思っていたのに、光一さんの前だと感情的になることばかりだ。
涙がこぼれそうになるのを、天井を仰いで必死にこらえた。
「もしかして、泣いてる？」
落ち着き払った彼の声が恨めしくて、ますます腹が立つ。
「泣いてたまるか！あなたのために流す涙なんて、一滴だって惜しいくらいよ」
私の怒涛の反撃が予想外だったのか、光一さんは呆気にとられたようにかたまっている。
「……は、ははっ」
少しの沈黙の後、白い歯を見せて、こらえきれないというように笑い出した。
「な、なんで笑うのよ」
「いや。……うん、やっぱり誰でもいいわけじゃないな。華がいい。ーーいいよ。探してみようか、その妥協点ってやつ」
その台詞に、このごに及んでも、まだときめいてしまう自分が悲しい。
それを悟られたくなくて、私は憎まれ口をたたく。

「上から目線……おじさんぽいから直したほうがいいよ」