偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「だって、俺いつも選ぶ側だったし。上からになるのは仕方ない」
私の嫌味もなんのその、光一さんはあっさりとそう言ってのける。
「まぁ、でも今回ばかりは選んでもらう立場になるわけか。了解、上から目線には
気を付けます」
光一さんはにこりと笑いながら、両手をあげて降参のポーズを取る。
「わかれば、よろしい」
「で、具体的にはなにをすればいいんだ?」

私は延々と考えこんだ末に、三つの提案をすることにした。
「その一、お互いに本音を言い合うこと。その二、お互いの理想に歩み寄る努力をする。
その三、時間が合う日は一緒に食事をする」
「一、二はわかるけど、三はなにか意味あるの?」
光一さんは眉根をよせて、せっかくの提案に水を差してくる。
「食卓を囲むって家族にとって、一番大事なことじゃない? その日にあったことを話したり、食後にテレビ見て笑ったり」
「ふぅん、そういうもんかね。じゃあ、どうでもいい宴会とかは断ってできるだけ早く帰る
ようにする」
珍しく、というか初めて? 素直に受け入れてくれるようだ。
逆に、光一さんからの譲れない要望はひとつだけだった。
「寝室は別。これだけは勘弁してくれ。目が覚めやすいほうだから、他人の気配があると
ダメなんだ」
「わかった。そこは文句言わない」
「あぁ、別に夫婦生活を拒否したいって意味じゃないよ。そこは華が望むなら……」
「そういうのは、当面いいですっ!!」
私の肩に腕を回そうとする彼を押しのけ、ぷいっと顔をそむけた。

こうして、私たちの試行錯誤の日々が幕を開けたのだった。
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