偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
やけに冷静に状況を観察する自分がいた。私は静かに口を開く。
「えっと、私なにか光一さんを怒らせるようなことしたかしら?」
「いや、なんにも」
「じゃあ、なんで急にこんなこと?」
「急じゃないよ。最初から俺の意向はかわってない」
悪びれる風もない、マイペースな彼の態度に、ふつふつと怒りがこみあげてくる。そして、とうとう臨界点を突破した。

「ーーはあぁ〜⁉︎ なに、意味わかんないこと言ってんのよ? そんなの入籍後に言い出すなんて詐欺でしょう?」
光一さんと私はスピード婚だった。初デートから三ヶ月でプロポーズ、その半年後の今日が入籍&披露宴。つまり、猫かぶってた‥‥とまでは言わないまでも、喧嘩らしい喧嘩もしたことはなく、光一さんはきっと私を穏やかで控えめな女と思っていたことだろう。
いまのヒステリーっぽいキレ方はまずいかも。頭の片隅にそんな考えもよぎったが、喋り出した口はもう止まらない。

「仮面夫婦って‥‥だったら、なんで結婚しようなんて言ったの?」
はぁはぁと息を切らせる私とは対照的に光一さんはクールなものだ。私のキャラの豹変ぶりにも特に驚く様子もない。

「付き合った当初から結婚したいって華も言ってただろ」
「うっ‥‥そうよ。私は結婚したかった。けど、仮面夫婦をしたいなんて思ってない!私は普通の結婚生活を送りたいの!」
「華の理想の結婚生活ってどんなの?教えてよ」
「それは‥‥どんなときも夫婦で支え合って、信頼しあって、いつまでも仲良くーー」
「へぇ、そんなの初耳だな。子どもができるまでは恋人気分で海外旅行に行きたい、子どもができたら会社はやめて趣味を仕事にしたい、いつかはマイホームでガーデニングを楽しみたい。その程度の希望しか俺は聞いたことなかったけど」
‥‥それは、たしかに言った。プロポーズされて、光一さんみたいな素敵な人が私を選んでくれたって浮かれまくって、そんなことをペラペラと喋ったのは事実だ。たしかに改めて聞くと、頭の弱い女っぽくはある。けど、だからと言ってこんな仕打ちを受ける理由になるの⁉︎
呆然とする私に、光一さんは容赦なく言葉のナイフを突きつけてくる。

「俺は会社での信用やうるさい両親を黙らせるために、妻という存在が必要だった。ただし、干渉はされたくない。そっちは周りにちょっと自慢できて、自分に都合のいい夫が欲しかった。お互いに自分の利益しか考えていない。ギブ&テイク、ちょうどいいじゃないか」
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